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すべては、日本代表が強くなるため

2010年4月08日

<横山謙三・取材後記>
 サッカーの指導者という枠組みを超えた「教育者」-。元日本代表監督の横山謙三氏(67)にお会いして、そう感じた。68年メキシコ五輪銅メダルGK。88年から91年まで代表監督を務め、94年以降は浦和の監督、総監督、ゼネラルマネジャーなどを歴任。現在は、埼玉県サッカー協会の専務理事として地域のサッカー振興に尽力している。
 「5年前に胃がんの手術をして、体重は一時期、20キロぐらい落ちましたよ」。華やかな表舞台から一線を引いた今でも、横山氏のサッカーへの情熱は高まるばかりだ。「日本にサッカー文化がしっかりと根付くためには、子どもたちにサッカーをやる環境を整えてあげなければならない。それが全国規模に広がれば」。
 横山氏が現在、力を入れているのは埼玉県内の中学年代の育成と強化だ。サッカーは今や、青少年の間で競技人口が増加している人気スポーツだが、県内にはある400近い中学校のうち、280校でサッカーの指導者がいない。「感性や個性、神経系統が最も発達する年代。それなのに、中学の7割で指導者が不足しているのは大きな問題だと思う」と横山氏は言う。
 新たな試みとして取り組んでいるのが、大学生のインターンシップを活用した外部指導者制度だ。サッカー経験者の学生に、埼玉県協会が独自で指導者ライセンスを発行。昨年は22人の学生が合格し、県内の7校に派遣して指導にあたった。無給のボランティアコーチだが、横山氏は「学生の指導者だと年齢的にも現役に近く、子どもたちにとって得られるものが大きい。教える側の学生にとっても、将来、指導者を目指すうえで実習の場となる」という。天然芝を張り巡らせたサッカー専用のスクールを新たに誕生させるとなると、資金や敷地、人材などあらゆる面で困難を伴う。だが、広大なグラウンドや体育施設、何より子どもたちの生活に密接な学校という「既存のハード」を生かせば、コストも時間もかけることなく、環境を整えられる。
 60年にドイツ人指導者クラマー氏が、日本に本格的なサッカーを伝導した。それから8年後、日本はメキシコ五輪で世界3位の勲章をつかんだ。当事者の1人だった横山氏が現在、若年層の育成に力を注ぐ理由が、そこにある。
 「確かに我々は強いチームだった。世界トップレベルの選手がそろっていた。でも、我々は当時、たまたまサッカーをやっていた、ひと握りの集団にすぎなかった。僕なんか、優秀な仲間にくっついてメキシコへ行っただけにすぎなかった。本当はもっと、もっと、才能あふれる優秀な人材がいたはずだ。クラマーさんが日本にサッカーを伝えて、わずか8年で銅メダル。その可能性を、今の日本も秘めている。日本サッカー界はもっと広く人材を発掘して、それをそのまま、トップリーグへ引き上げていかなければならない。限られた、横幅の狭い土壌ではもったいない」。
 地域に根付いた文化が、若者に夢を与え、人間形成に大きな影響を与える。やがて全国規模になり、国内最高峰・Jリーグに多くの人材が結集する。そして…。横山氏は言う。「すべては、日本代表が強くなるため。日本がプロリーグを発足させたのも、元はと言えば、代表を強化し、世界と戦うためなのだから」。世界の舞台に挑むサムライ・ブルーとともに、かつて歴史を彩った全日本の功労者たちの戦いもまた、多くの期待と夢を背負っている。【山下健二郎】


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奇跡に挑む者たち
奇跡に挑む者たち
 日刊スポーツ紙面では「世界4強 岡田ジャパン 奇跡へ」を連載中です。「奇跡」をキーワードにいくつかのテーマに分け、現在は日本代表23選手のルーツを探る「奇跡に挑む者たち」を連載しています。ニッカンコムでは、各回の「取材後記」を掲載しています。紙面とあわせてお楽しみください。

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