2010年5月29日

＜川口能活：取材後記＞
　“あの”松永成立がいた。Ｗ杯を目前に控えたこの時期、テレビで何度も繰り返されるシーン。９３年、Ｗ杯アメリカ大会出場を逃した「ドーハの悲劇」の映像で、必ず登場するＧＫだ。自分がサッカー少年だったころ、まさにブラウン管で応援していた選手だ。現在は横浜のＧＫコーチ。取材の日、全体練習が終わってもしばらくＧＫ陣の練習に付きっきりで指導していた。
　もともとＧＫに他のＧＫのことを聞くことは、気が引ける。ＦＷ、ＭＦ、ＤＦと違って定位置は１つ。しかも、チーム内での序列がはっきりとしている。すでに現役を引退しているとは言え、シビアなポジションだから普段のクラブ取材でも気を使うことは多い。しかし、取材内容を説明すると、松永コーチは「全然いいよ」と快諾してくれた。
　当時のことを一生懸命思い出しながら話してくれた。話は広がり、同コーチが持つサッカー論やＧＫ論から人生論まで。長くサッカー界で過ごしている分、話す内容は、熱い。特に、日本代表の話となればさらにヒートアップする。
　松永コーチ　日の丸をつけて戦うということは、全国民の思いを背負うこと。代表引退なんて考えられない。おれは現役の間はずっと狙っていた。仙台のときも京都のときも。じゃないと面白くないよ。きっと、ゴン（札幌ＦＷ中山）もカズ（横浜ＦＣ・ＦＷ）も、そう思っているんじゃないかな。
　Ｊリーグ草創期を支えた大ベテランたちの代表への思いは半端じゃない。「（川口）能活さんにメッセージをひとことお願いします」と、サイン色紙を差し出すと「これしかないだろう！」と言いながら「魂」と書いた。なるほど。代表で戦ってきた男の言葉だからこそ、その意味は重い。ズッシリと感じた。【栗田成芳】