2010年3月27日

〈デットマール・クラマー・取材後記〉
　ミュンヘンからプリーン・アム・キームゼーまで電車で１時間、バスに乗り換えてさらに１時間。人里離れた山奥のライト・アム・ヴィンクルでバスを降りてきょろきょろとデットマール・クラマーさん（８４）の姿を探すと、後からクラクションを鳴らされた。振り返ると愛車のＢＭＷで迎えに来てくれたクラマーさんだった。助手席に乗り込み、あいさつをかわすと、近くの行きつけのレストランに案内してくれた。
　クラマーさんはどんな質問にも真剣に、そして暖かく答えてくれた。あらためて、どれだけクラマーさんが日本サッカーのために大きな力となったかを思い知った。そして４０年という時がたちながら、本質的な問題が改善されないままでいる日本の現状をさびしく思った。
　クラマーさんは今でも一指導者としてたゆまぬ努力を続けている。毎年日本にも行き、育成層指導者を前に公演を精力的に行っている。自分も日々の努力を怠らず、謙虚に向上心を持ってサッカーに取り組んでいこうと心に誓った。
　取材中に１人の初老の男性が、クラマーさんに声をかけてきた。「クラマーさん、お久しぶりです！　ここに来ていると今ウエーターさんから聞いたもので」。彼はクラマーさんの３０年以上前の教え子だった。「懐かしいな。昔は遅くまで飲んだものです。クラマーさんもつぶれて、朝まで家の前で寝ていたこともあるんですよ」。クラマーさんは楽しそうにそんな話を聞いていた。その優しいまなざしに、深い情愛が見て取れた。【中野吉之伴通信員】