2010年3月12日

＜高田川親方・取材後記＞
　「けいこの鬼」は親方になっても変わっていなかった。元関脇安芸乃島の高田川親方は、昨夏に高田川部屋を継承し、東京・江東区に部屋を開いた。２５人の力士は全員黒まわし（幕下以下）。親方は鋭い目でけいこを見る。国技館で会うときの話し上手で笑顔あふれる様子とはまったく違う。土俵上だけなく、周囲でてっぽう、しこ、すり足をする者まで隅々に目を配る。少しでも気を抜けばカミナリを落とす。「自分が強くなるためのけいこだろ。この世界は強くなれなきゃ、やめていくしかないんだ」。

　一部の部屋と比較すれば、何十倍も厳しいけいこも、親方から見れば物足りない。「オレたちのころは、みんなが競い合って強くなろうとしていた。アイツがしこを１０００回踏んだら、オレは１２００回とかね。よその部屋がけいこしてない今は、すぐ上に行けるチャンスなのに、今の子はそう思えない」と嘆く。

　生活が豊かになって、強くなって金を稼ごうとか、厳しい生活をする親を助けたいといったモチベーションは成立しにくくなった。相撲に限らず、指導者には厳しい時代だ。親方は同じ広島出身でプロ野球西武などを率いた広岡達朗氏の話を紹介してくれた。「一流とそうじゃない人の違いが分かるかい？　一流は教えなくても、自分が上達する方法を知っているんだ。巨人のように一流ばかりならいい。そうじゃないチームの監督は、その方法から教えなくちゃいけないんだ」。

　人の気持ちを動かし、変えるのは難しい。高田川親方も厳しい指導の一方で、けいこ後のちゃんこは弟子たちと鍋を囲み、雑談の合間にけがの様子、弟子の考えを聞く。相撲本来の親子同様の師弟関係を築こうと努力している。その指導ぶりを見ていると、若い関取が次々に育った、かつての藤島部屋の再現を期待したくなった。【来田岳彦】