2010年3月09日

〈三浦雄一郎・取材後記〉
　１歩１歩、雪山に足跡を刻むように、三浦雄一郎さんはゆっくりとした口調で話を進めた。記者がメモを取りながら話を聞いていると、そのメモをのぞきながら、筆の速さに話のスピードを合わせてくれる。３０歳以上も年齢が離れている記者に、最後まで敬語を使って答える。札幌の藻岩山に話題が及ぶと「モは岩に生えている草かんむりの藻で、イワは普通の岩です。地元の人じゃないと分かりませんからね」と率先して書き方を教えてくれた。
　実際にエベレストに登頂する時は、２カ月掛けて高度順応する必要があるという。登山に知識のない記者に「３０００メートルから始まって…、５３００メートルから６１００メートル地点まで２週間掛けて４回登って降りることを繰り返して…、７０００メートルまで登ったらまた４３００メートルまで降りて１週間休んで…、最後は８３００メートルにアタックキャンプをつくって、５、６時間掛けて８８４８メートルの頂点まで一気に登る」と２カ月の挑戦を、１日単位で説明した。
　山男はワイルドで、気性が激しい－。「そんなのも知らんのか？」と一蹴されるのを恐れて、自分なりに勉強して臨んだ取材だったが、三浦さんは私の印象、心配を見事に裏切ってくれた。頂上を極めた人だからこそ、自然ににじみ出る余裕だろう。
　３年後にはまたエベレストに挑戦する予定だ。「私の好奇心は私も抑えられない」。エベレストに登る時はいつも死を覚悟するという。「死ぬ気で登った方が生きて帰れますからね」。笑顔で「死」を語れる強み。三浦さんにできないものはないはずだ。【盧載鎭】