2010年3月09日

＜松井秀喜・取材後記＞
　まさかサッカーの話をする日が来ようとは思わなかった。
　今回の企画でメークドラマを取り上げることになり、大リーグ、エンゼルスの松井秀喜外野手（３５）を訪ねた。巨人、ヤンキースを担当していた時代には、野球はもちろん、プライベートのことまでいろいろ話した思い出がある。

　サッカーの話をしたことはあったかな？　と思いつつ、岡田ジャパンの目標と現状について説明した。岡田監督が、到底無理な目標をたてた。そう言うと、松井からは予想通りの答えが返ってきた。「無理って決め付けられるの？」。「勝負はやってみなくては分からないよ」。厳しい勝負の世界を生き抜いている者たちは、共通の認識を持っている。戦う前から結果を決め付けない。それは鉄則と言っていい。

　私は用意しておいた対応…「聞きたいのはメークドラマのことと、松井選手の勝負哲学。決してサッカー、岡田ジャパンの結果予想ではない」と説明して、答えてもらった。松井は巨人、ヤンキースという強豪チームを渡り歩いてきた。何度も優勝は逃しているが、戦力豊富な盟主として、他球団から常に標的とされていた。

　松井　ボクは逆の立場が多かったんだよね。でも、相手が捨て身というか、チャレンジャーとして挑んでくるとき、これほど怖いものはない。思い切って向かってくる相手を退けるのは、周囲が思うほど、簡単ではない。それは痛感してきた。

　日本代表にも重圧はある。でも、それ以上に強豪国にも重圧はかかっている。予選同組のオランダにも、カメルーンにも、デンマークにも。そして優勝候補と呼ばれるブラジルやスペインにも。技術の差があっても、簡単に勝てる相手などいない。岡田ジャパンは、それを肝に銘じておいてほしい。

　松井とサッカー。そう言えば大きなつながりがあった。松井が巨人へ入団した１９９３年（平５）は、Ｊリーグが開幕した年だった。彼は入団会見でこう語っている。　「サッカー、相撲に小さい子供たちの心が動いています。自分はファンや子供たちに夢を与えられるプレーヤーになるよう、一生懸命頑張っていきたい」。

　私は、かねて「松井には名勝負がない」と書いてきた。「村山ＶＳ長嶋」や「江夏ＶＳ王」、「江川ＶＳ掛布」「野茂ＶＳ清原」といったライバル対決が見あたらない。それを残念に思っていた。しかし、もしかすると松井のライバルはＪリーグだったのかもしれない。Ｊリーグ発足に危機感を抱いたプロ野球の神様が、松井秀喜という存在を生み出した…なんてことはないだろうか。

　ちなみに、私は９３年に日刊スポーツ新聞社へ入社した。野球を担当していたころは「松井選手が巨人に入団した９３年の入社です」と自己紹介していた。サッカー担当に移ってからは、もちろん「Ｊリーグ元年の９３年入社です」に変えている。
　…まあ、どうでもいい話ですけど。【飯島智則】

＜長嶋茂雄・取材後記＞
　会うのは、長嶋茂雄（７４＝巨人終身名誉監督）さんが病に倒れてからは初めてだった。元気なころを知るだけに、昔と違う姿を目にするのがちょっと怖かった。心配無用だった。宮崎に向かう羽田空港で長嶋さんは、「ど～も、久しぶり～」と変わらぬ笑顔で声をかけてくれた。

　もちろん、右半身はまだ不自由そうだった。でも、顔色は良く、立ち姿は監督時代と何ら変わらない。話を始めると、だんだんと言葉に熱を帯びてくるところも昔のままだった。想像を超えるハードなリハビリの成果だろうが、長嶋さんに言わせると「リハビリじゃありませんよ。あれは筋トレ」なのだそうだ。

　野球とは全く関係のないサッカーの話題に、嫌な顔一つせず、ていねいに答えてくれた。「岡ちゃんどうなの」と逆取材もされた。好奇心旺盛なところも全く変わっていない。「岡ちゃんに言っといてよ。勝つ、勝つ、勝つ。これですよ」。岡田ジャパンよりも先に、元気をもらった気がした。【沢田啓太郎】