Sawbona（こんにちは）南アフリカ

【Sawbona! W杯】川淵キャプテンの「夢」－２

2009年7月22日

未熟だった選手

　徹底管理の４年間を終えた日本代表は０２年７月、新監督にジーコを迎えた。ＭＦ中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一、ＦＷ高原直泰、柳沢敦ら「黄金世代」を、世界最高プレーヤーだったジーコが率いるという理想の形となった。

　川淵Ｃ　ジーコは選手に信頼と敬意を持って接してくれた。トルシエとは全くの正反対だった。頭ごなしに手取り足取りの指導はしなかった。このチームなら自由にやらせても世界のトップと戦っていけると思っていたんだ。アジア杯では、準決勝のバーレーン戦でロスタイムに中沢が前に出て行って同点にするなど、奇跡的な優勝を果たした。ジーコがチームに求めていることを自然に選手が理解し、「自分がやらなきゃ」とプレーで示せた結果だ。

　順風満帆にみえたジーコジャパンだったが、肝心の０６年Ｗ杯ドイツ大会では失速した。当時の代表は与えられた「自由」を生かすには未熟すぎた。

　川淵Ｃ　オーストラリアに逆転負けしたことでチームは瓦解した。あのとき１－０で勝っていたら、結果は違っていたと思う。大会前になって、「監督の指示が十分じゃない」なんていうことをマスコミに言う選手が出てきた。全力を出して戦ってもないのに、自分に任された責任を転嫁したに過ぎない。コメントを聞いたジーコは悲しかったと思うよ。

　ジーコの４年間を象徴する出来事が、Ｗ杯最後のブラジル戦であった。１点リードした前半ロスタイムに守備のミスから同点に追いつかれた。１－０で後半なら相手に焦りが生まれる。ブラジルの焦りこそが勝利につながる。そのプランを、集中力を欠いたプレーでぶちこわした。川淵キャプテンは一緒に観戦していたＦＩＦＡのブラッター会長から「なんで点をやるんだ」とまくしたてられ「オレの方こそ怒りたいよ」とつぶやいた。同時に、ジーコがハーフタイムにどう対応したか心配になった。

　川淵Ｃ　聞いたところでは、すぐにはロッカールームに戻らず、怒りを静めていたそうだ。それでも、選手の前に立つと怒りがよみがえった。思わず拳を握りしめた両手を挙げていた。だが、その感情を抑え込むように手を下げた。そして「後半頑張ろう」とだけ話した。ジーコは４年間、我慢を続けてきた。チームには経験と能力があると信じてきた。ここで爆発したら、これまでの自分じゃなくなると思ったんだろう。あのシーンが、ジーコの４年間の指導、選手との接し方を象徴していたと思う。でも、日本の選手はジーコが信頼したよりは下のレベルだったということになるんだろうね。

　◆川淵三郎（かわぶち・さぶろう）１９３６年（昭１１）１２月３日、大阪・高石市生まれ。早大から古河電工に入社し、６４年の東京五輪に出場、７２年に現役を引退した。古河電工、日本代表監督を歴任。一時サッカーから離れたが、８８年にＪＳＬ総務主事と日本協会理事に復帰し、プロ化へ手腕を発揮。９１年にＪリーグ初代チェアマンに就任。０２年には日本協会会長となり３期６年務めた。０８年７月から同協会名誉会長。現在、日本サッカーミュージアム館長も兼務。