【Sawbona! W杯】02年が4強への始点 06年を日本の終点にするな
2010年5月18日
W杯南アフリカ大会で「世界4強」を目指す日本代表の課題は何か? 「Sawbona(サウボーナ)! World Cup!!」の最終回は、岡田ジャパンの解析料理。サッカー解析システム「スタッツ・スタジアム」のデータを基に、過去3大会の日本代表と比較し、検証した。その結果、決勝トーナメント(T)に進出した02年日韓大会日本代表の「闘い」から、上位進出へのヒントが見えてきた。
岡田ジャパンは昨年9月以降、今回のW杯出場5カ国と対戦している。戦績は1勝1分け3敗。その5試合のデータを、過去のW杯代表と比較した。
象徴的だったのが、相手選手に自陣守備エリアでプレーを許した回数を表す「被30メートルライン進入数」で、1試合平均51回と非常に高かった。98年代表の同32回、02年代表の同31回を大きく上回る。惨敗した06年代表の同58回に迫る今回の数字は、意思統一が甘く、カウンターに対する対応が脆弱(ぜいじゃく)だった前回の課題が克服されていないことを物語っている。
岡田ジャパンの生命線は「攻守の切り替えの速さ」にある。前線からの守備と連動してDFラインを押し上げ、全体をコンパクトに保つ。ボールを持つ相手に前線から組織的にプレスをかけて、高い位置でボールを奪い返し、一気に攻撃に転じる。ボールを奪い返されれば、再びプレスをかける…。相手攻撃の「始点」を抑えることは、カウンター対策にもなる。
だが、この生命線がいまだ徹底されていない。5試合の平均プレー位置(セットプレーを除く)を分析すると、W杯過去3大会と比べてDFラインは驚くほど高い。ハーフウエーラインから最後尾のDF中沢までの距離は16・6メートル。06年代表の27・0メートルと比べると、10メートル以上の大差がある。
一方で守備ラインを強気に押し上げているのに、肝心の前線からのプレスと連動していない。4月のセルビア戦では前半15分に縦パス1本のカウンターで失点した。FW興梠の横パスが中盤でカットされたことに起因するが、MF中村俊や阿部のボール保持者に対する寄せが甘かったことが失点の要因だった。このようなパターンでラインを押し上げたDFとGKの間のスペースを相手FWに突かれ、5試合中4試合で3失点を喫した。
もっとも単純に守備ラインを下げればいいわけではない。前線が積極的にプレスをかけている中で、DFラインを下げれば、DFとMFが間延びしてできる「バイタルエリア」を相手に突かれてしまう。06年代表はボランチに入った中田英らMF陣が攻撃を重視する一方、DF宮本らDF陣はラインを下げて相手の攻撃の「終点」をたたこうとした。その結果、広がったバイタルエリアを相手に使われて、失点を重ねた。あくまでラインを下げる場合も、前線との連動が不可欠になる。
W杯開幕まで残り1カ月を切った。いまだ戦術の徹底に苦しんでいる岡田ジャパンに特効薬はあるのか。W杯で唯一決勝Tに進出した02年代表のデータにヒントがある。同代表は「こぼれ球奪取数」が1試合平均69回と、他の代表を圧倒的に上回っていた。現代表(同28回)のおよそ2・5倍。地元サポーターの声援を背中に受けて、全員がルーズボールに突進していった。さらに1試合平均のファウル数は、02年大会に出場した32カ国中最多だった。これも激しく守備をしたからこそのデータ。その闘争心とボールへの執念があれば、自然と日本の組織戦術も徹底され、不用意なカウンターも防げるはずだ。
闘莉王らの抜けた4月のセルビア戦で完敗した後、岡田監督は「3バックや我慢する試合運びも考えないと」と、主力が欠けた場合の条件付きで、守備的システムへの変更も示唆した。確かに、W杯では全体のラインを下げて、守備を固めて戦う選択肢は現実的かもしれない。だが、あくまで球際で「闘う」姿勢がなければ「世界4強」は望めない。【石川秀和】
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