【Sawbona! W杯】公式ボールは魔球「加速したように伸びる」
2010年4月13日
W杯公式球「ジャブラニ」について、現場からさまざまな声が聞こえてくる。「ロングボールがすごく伸びる」「いきなり変化する」。実際のところ、どうなのか? そこで、筑波大大学院の工学博士で、蹴球部総監督も務める浅井武准教授(53)が科学的に解明を試みた。すると…。実験結果から「GKには受難のW杯」という答えが浮き上がった。【取材・佐藤隆志、山下健二郎、八反誠】
南アフリカの公用語の1つ、ズールー語で「祝う」の意味を持つ「ジャブラニ」。より完全な球体に近づいたハイテク球は、従来のボールよりも伸びる、弾む、変化する、という。筑波大大学院の浅井准教授は、航空機、自動車などが気流から受ける影響を測る「風洞実験」を用いて、ボールの速度における空気抵抗の変化を計測。前回のW杯公式球「チームガイスト」と比較した。
浅井准教授 はっきり言えることは、ジャブラニはスピードが落ちにくい。つまりGKからすると、ボールが今まで以上に速く伸びてくるように見える、ということです。
実験によると、ボール速度が毎秒10メートル(時速36キロ)以下の低速状態なら、空気抵抗の比率は高いが、それが毎秒20メートル(同72キロ)以上になると、抵抗比率はグンと下がる。さらに毎秒25~30メートル(同90~108キロ)にスピードアップしても、抵抗比率は低いまま。その傾向はチームガイストに似てはいるものの、数値はさらに低かった。
つまりボールの速度が上がれば、空気抵抗の比率は下がる傾向にあり、まるで「加速したかのように伸びてくる」のが、ジャブラニの特性だった。一般的にプロのミドルシュートは時速100~120キロ。しかも今回のW杯は、標高1753メートルのヨハネスブルクを筆頭に、1200~1700メートル級の準高地が10会場中6会場を占める。気圧が低ければボールへの空気抵抗はさらに弱まるため、シュートは大きな武器となり得る。
浅井准教授 このボールの特長を有効活用するなら、ミドルシュートでしょうね。そうなると、GKにはシビアな問題です。ぎりぎり触れることができたシュートボールに触れられなくなったり、パンチングでポストぎりぎり逃げられたものが、後方にはじいてゴールインというケースが増えると思う。
なぜ、このような特性を持つのか。正確なところは不明だが、理由の1つは、ボールの構造(メモ参照)があるとみられる。製造元のアディダス側は「いかなる環境下においても選手のプレーにフェアな反応をすることが開発のコンセプト。GKの判断能力や、常識を超えるような変化はしない。それは公平性を欠く」と説明するものの、実験結果から「GK不利」の印象は否めない。ジャブラニは、W杯で多くのゴールを「祝う」ために生まれたようだ。
◆ジャブラニの構造 ボール表面を覆うパネル枚数がチームガイストの14枚から8枚に減少した。パネルは従来の平面的なものから、丸みを帯びた形状に変わり(3Dパネル)、より完ぺきな球体に近づいた。ただパネルの接合上、ボールの正面と裏が対称になっておらず、無回転ボールを蹴り出した場合、不規則に変化しやすい。また、「ボールが滑る」というチームガイストの課題を克服するため、ボールに付着した水滴が流れ落ちやすいように凸凹の溝が付けられた。表面はプラスチック感のある塗料でコーティングされ、ツルツル感が強く、空気抵抗は弱まりそうだ。
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