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【Sawbona! W杯】日本代表新春インタビュー:川島永嗣

2010年1月12日

すごいシュート止めたい

 すごいシュートを止めてみたい。少年時代から抱き続けた夢をかなえる時が来た。日本代表GK川島永嗣(26=川崎F)。昨年は9月のオランダ戦で先発の座を射止め、その後も定位置を確保。本大会に向け、ベテラン楢崎正剛(33=名古屋)と正GKの座を争う立場となったが、意識はすでに南アフリカのピッチ上にある。「W杯は、あこがれではなく結果を残すところ」。ポジションを奪い取り、夢を現実に変える。【取材、構成・松田秀彦、今井恵太】

18歳の転機

 川島は現在、イタリアのパルマにいる。セリエAユベントスのイタリア代表GKブフォンを育てたエルメ・フルゴーニGKコーチ(現モデナ)の指導を受けるためだ。同コーチとは大宮時代の01年、セリエAパルマの練習に1カ月間参加した時からの師弟関係。オフにタイミングが合えば訪れてきた。パルマに向かう直前に、話を聞いた。

 川島 「18歳の時に初めて指導を受けて、自分にとって大きな転機でした。日本以外の『世界』に触れたことでプレーのベースに『世界』を意識することができるようになった。今年も『世界』の空気を吸うことで、その意識、感覚を強くできればと思っています」。

 モチベーションを高めるために、昨年末のオフには南国タイの島に滞在。海でシュノーケリングを楽しみ、プールサイドでうたた寝し、部屋ではサッカーと無縁のDVDを鑑賞した。

 川島 「1年間、目いっぱいサッカーのことを考え続けた頭をリセットするためにサッカーを切り離し、何も考えず、のんびりする時間が必要だと思いました」。

 昨年は代表メンバーとして収穫の多い年だった。代表候補初招集は07年2月。08年2月の東アジア選手権でA代表デビューしたが、楢崎、都築龍太(31=浦和)らベテランの存在が大きく、出場機会はほとんどなかった。ところが昨年は、楢崎や都築の負傷もあり、チャンスがめぐってきた。1月のアジア杯予選では2試合続けて先発した。

 川島 「試合に出られなくても自分の役割は考えていましたが、実際にプレーを見せることは、チームメートに信頼感を与えることにつながる。そこは1つの大きなプラスになりました」。

 しかし2月からのW杯予選では再び控えに回った。

 川島 「自分の中ではすごいチャンスだと思っていたので、逆の方向に行ってしまい、悔しい思いをしました。そこを乗り越えるのは大変でしたが、自分の目標は自分のプレーを高いレベルに持っていくこと、と意識し直すことで切り替えることができました」。

オランダ戦

 再びチャンスは訪れた。楢崎の離脱もあって、9月の親善試合オランダ戦に先発。前半は無失点に抑えたが、終わってみれば0-3の完敗だった。

 川島 「試合後に残っていたのは悔しいという気持ちだけです。自分たちが世界でどういう位置にいるか確かめる機会でもありましたが、結果でも自分たちはやれるということを証明したかった。ユースのころから世界と戦ってきましたが、毎回毎回いつも同じように差を感じて、やっぱりすごいと言って終わっていては何も変わらないですから」。

 W杯本大会では、初戦カメルーン戦の結果次第では、2戦目のオランダ撃破が1次リーグ突破のカギを握ることになる。

 川島 「(親善試合の)前半であれだけやれたというのは自分たちにとって自信になっている。もっとプレーの精度を上げないといけないと感じたことは事実ですが、サッカーは何が起こるか分からない。(オランダには勝てないと)見ている人たちを驚かせるような結果を残したい」。

 昨年はスコットランド、トーゴ、南アフリカ、香港を相手にした10月以降の試合はすべて完封した。評価は高まったが、W杯本大会で試合出場する保証はどこにもない。最大のライバル楢崎もケガから復帰する。

 川島 「競争は当たり前。自分の中で大切にしているのは、競争に勝つという意識よりも、(本大会までの)残りの時間で何ができるかということ。プレーの精度を上げ、試合で失点しない。そこにこだわることが、結果的にポジションをつかむことになると思っています」。

違う武器で

 楢崎とは、大宮から移籍した名古屋で3年間、正GKの座を争った。移籍先を名古屋に決めた理由の1つに楢崎の存在があった。乗り越える存在が大きければプレーの幅が広がり、質も上がると考えたからだ。当時は背中ばかり見つめる存在だったが、今は違う。

 川島 「名古屋でいろんなことを学ばせていただき、得たものも大きかった。でも考えてみれば、きっと楢崎さんと自分のいいところは違う。何より、結果を残した方がいい選手という世界。今の自分は自分自身をどう表現できるかということに興味がある。だから名古屋時代とは違う、代表というところで一緒にやるのは楽しみなんです」。

 追いかけるのではなく、自分らしさで勝負する。試合出場を重ねたことで深めた自信が、意識を変えた。

 サッカーを始めたのは小2。公園で家族とボールを蹴るうちに楽しくなり、サッカー少年団に入った。シュートを打つより、止めることが好きな少年だった。ポジションは最初からGKを希望した。W杯に初めて触れたのは、小学校高学年の時だった。アルゼンチン代表マラドーナが活躍した86年メキシコ大会をビデオで見た。生中継を食い入るように見始めたのは94年アメリカ大会からだった。

 川島 「W杯はすごい、あんな舞台で試合をしてみたいというあこがれはありましたが、目標ではなかった。大会は何であれ、世界レベルの難しいシュートを止めてみたいという方の興味が強かったですね。プロ入り当時もあまりにも遠すぎる存在で、リアルな目標ではなかった。今の自分にとってW杯は、目の前の目標を1つ1つクリアしていくうち、いつの間にか目前に現れてきたようなもの。クリアしてきた目標の延長ですから、あこがれではなく、結果を残すところだと思っています」。

 少年時代から描いた夢をかなえる時は、もうすぐそこまで近づいている。

 ◆川島永嗣(かわしま・えいじ)1983年(昭58)3月20日、埼玉県生まれ。浦和東高から01年大宮入り。02年にU-19日本代表に選出され、AFCユース選手権で活躍。04年に名古屋に移籍。07年に川崎Fに移籍。08年2月の東アジア選手権の北朝鮮戦でA代表デビュー。09年は代表7試合に出場して5失点。同年のJリーグベストイレブンにも選ばれた。185センチ。血液型O。


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