Sawbona（こんにちは）南アフリカ

【Sawbona! W杯】英雄監督明暗

2009年9月22日

予選クローズアップ南米編

　名選手は名監督？　それとも迷監督？　Ｗ杯南米予選で、サッカー史に残る元名選手監督の明暗が分かれている。アルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナ監督（４８）は、９月５日にホームのロサリオで行われた試合で、ブラジルに１－３で大敗。自動出場圏外の５位に転落し、解任論が巻き起こっている。一方この試合で１９大会連続のＷ杯出場を決めた、ブラジルのドゥンガ監督（４５）の評価は不動のものとなった。

　失点した途端「引き分け、引き分けろ！」と連呼する…。この叫びの主が「神の子」マラドーナだなんて誰が思うだろうか？　９日のパラグアイ戦に敗れ予選３連敗となった直後、ＦＷメッシの父ホルヘ氏が、マラドーナ監督の「素人ぶり」を暴露した。同氏によると、戦術はＭＦベロン、ＤＦハインツェらベテランがピッチ内で決める。流れが悪くなり、選手が何をしていいか分からなくなっても、同監督は具体的な対応策を指示できないという。

　ホルヘ氏は息子に、代表の苦しい内情を聞いたに違いない。５日のブラジル戦は、まさに暴露話通りの結末となった。ＤＦ陣がブロックもつくれず３失点すると、攻撃もメッシら個の力に頼り切りで、連係はないに等しかった。個人技重視の南米でも、アルゼンチンは組織的な堅守が伝統で、攻守のバランスの良さに定評があるが、かけらも見られなかった。あきれ果てたメッシ経由の暴露話をきっかけに、監督とエースの確執もささやかれる。

　昨年１０月、予選３位と波に乗れなかったバシーレ前監督の辞任後、同監督は母国をＷ杯に導くカリスマとして協会に擁立された。ただ９４年１２月から５カ月、ラシン（アルゼンチン）の監督を務めただけの「素人監督」就任には、国民の７割が反対。当時の疑問は今や解任論へと発展した。ピッチ内を仕切っていたＭＦリケルメの代表引退も痛い。３月にマラドーナ監督が「パフォーマンスが悪い」と批判したことが原因だけに、後悔してもしきれないだろう。協会ともコーチ人事などでもめ、関係は良くない。

　１３日にはメッシらと話し合うため、欧州に飛んだが、その足でダイエットのため、イタリアの温泉病院に向かったことも発覚。「批判は怖くない。仕事を続けるだけだ」と強気だが、９１年のコカイン所持にはじまる、型破りぶりは相変わらずだ。７０年メキシコ大会以来２度目の予選敗退の危機を迎え、マラドーナとアルゼンチンは、どこへ向かうのか…。

　マラドーナ同様、監督経験ほぼゼロの状態で０６年７月に就任したブラジル代表のドゥンガ監督だが、その評価はうなぎ上りだ。０７年の南米選手権に加え、今年はＷ杯の前哨戦コンフェデ杯を制した。来年のＷ杯本大会でも優勝候補だ。

　それでも就任直後は苦難の連続だった。ＭＦロナウジーニョら圧倒的なタレントを擁しながら、まさかの準々決勝敗退に沈んだ０６年Ｗ杯の反省を胸に「ブラジル代表を変える」と宣言。圧倒的な個人技を前面に出す、華麗なブラジル流を封印し、堅守からのカウンターという手堅いサッカーを追求した。

　ところが０７年１０月に開幕した南米予選は、コロンビアとの初戦を０－０で引き分け、０８年６月にはパラグアイに０－２で敗戦。解任論が浮上し、サポーターからは「つまらない」「さようなら」などとヤジも飛んだ。

　協会側もドゥンガ監督の失敗を想定し、０２年日韓大会優勝監督のフェリペ氏を起用するプランを用意するなど、まさに四面楚歌（そか）の状態だったが、ドゥンガ監督は決して自分を曲げなかった。「個人よりチームのために」を合言葉に、ロナウジーニョら私生活に問題のある選手を招集せず、ＭＦカカらまじめな選手でチームを固め、戦術の徹底をはかり、揺るぎないチームをつくりあげた。「オレの代表をつくる」と宣言したドゥンガ監督に文句を言える人間は、国内に誰もいなくなった。（エリーザ大塚通信員）

　◆ドゥンガ監督こんな人　０６年１２月１０日、クラブＷ杯視察のため来日したドゥンガ監督にインタビューした。同監督は「風通しのよいチームにしたい。そのために選手との対話を心掛けたい。ベンチに入る２２人の誰が出ても、ベストの戦いができる状況をつくる」と力を込めた。３年近くたった今、言葉は現実になった。

　率直な意見は、日本のサッカー界にも向けられた。「日本はぬるま湯状態。誰かが勇気を持って打開しないと、勝つことはできないだろう。Ｊクラブは日本人にもシビアさを求めないと。１０回の決定機を１回しか決められないようでは困る」。本当に耳が痛かった。

　「私も監督になって、いろいろな批判を受けている。でもまずは結果を見てほしい」。ぶれず、曲がらずの姿勢で、ドゥンガ監督は結果を出した。【村上幸将】