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【Sawbona! W杯】ニッカン夏季講習・物理

2009年8月18日

ニッカン夏季講習3時限目・物理

 「ニッカン夏期講習」の3時限目は物理です。ポルトガル代表MFクリスティアーノ・ロナウド(24=Rマドリード)、日本代表MF中村俊輔(31=エスパニョール)ら世界に名だたるFKの名手たちのボールは、なぜ、あれほど変化するのか? そのボールの周囲に何が起こっているのか? 流体力学を研究する筑波大学大学院・浅井武准教授(52)に、「FKの裏側」について聞いてみた。(構成・佐藤隆志)

 そもそもFKのボールはどうして曲がるのか。

 浅井氏 流体力学の仕組みとして、飛ぶボールは圧力の小さい方に曲がります。右足で放ったカーブキックの場合を例にすると、横回転するボールの右側では、空気の流れがボールに逆行して遅くなり、逆に左側はボールの回転に沿って空気の流れは速くなる。流れが遅ければボールへの圧力は大きくなり、速ければ逆に小さくなる。こうした相対的な速度差によって圧力差が生まれ、ボールは左へ曲がります。これは「マグナス効果」と呼ばれるものです。

 日本なら中村俊がこれだ。左足のインサイドでこすり上げられたボールには回転がかかり、マグナス効果が起きている。FKと言えば中村俊のようなカーブ系キックがこれまでの主流だったが、近年は予測不能なナックル系も多く見られるようになった。その代表例と言えばC・ロナウドだ。

 浅井氏 回転があればボールの軌道は安定します。マグナス効果が働き、右回転するボールは左へ曲がり、左回転するボールは右へ曲がる。しかし、無回転、低回転となるとそうはいかない。ボール両サイドでの圧力差がなくなり、わずかな空気抵抗によって、その軌道はブレやすい。また、ボールスピードによっては「ドラッグクライシス」と呼ばれる、急激な空気抵抗の落差が生まれやすい。

 ボールの周辺でいったい何が起きているのか。そこでボールに白い発煙物質を付けた実験で、無回転系キックの軌道を探ってみた。すると…ボールの後ろで空気の流れが竜のように蛇行していた。

 浅井氏 球体から離れた空気の流れ(=後流)は、ボールの後方で複雑な渦を巻いている。この蛇行は(ボールの)低回転ならではのもの。ここで起こる大気中の渦が、ボールに対して不均衡な横力を発生させています。C・ロナウドの場合、マグナス効果が低い(回転が少ない)上に、ボールインパクトの瞬間に渦の振動が起こっている。その振動が強ければ強いほど後流は複雑な渦を巻き、ボールの軌道は予測不能となるのです。

 ただし1メートル以上も変化するカーブ系と違い、実際に低回転ボールの変化は20-30センチにすぎない。それでも、よく訓練されたGKほど最初に見えた軌道に体が反応してしまうため、変化に対応できないという。近年は表面がツルツルで縫い目のないパネル接合ボールの開発が進んだことも、不測の軌道を助長したようだ。

 技術に加え、強靱(きょうじん)な肉体を併せ持つC・ロナウドだからこそ実現した「魔球」。大気を揺るがす強烈なボールインパクトが、サポーターをも歓喜の渦に巻き込んでいる。

 主な名手の伝説FK

 ◆C・ロナウド(マンチェスターU=09年5月5日) 欧州CL準決勝アーセナル戦の前半11分、右サイドでゴールまで約37メートルの長距離から弾丸シュート。右足親指の根元部分で、強く押し出すようなけり方での無回転ボール。GKアルムニアは不測の変化に対応できず。

 ◆中村俊輔(セルティック=06年11月21日) 欧州CL1次リーグのマンチェスターU戦の後半36分、ゴールまで約28メートルの距離から決勝ゴール。左足インサイドでこすり上げたボールは、相手の高い壁を越え、ニアポスト際へ鋭く曲がって落ちる芸術的な弾道だった。

 ◆ジュニーニョ(リヨン=05年9月13日) 欧州CL1次リーグのRマドリード戦で、前半26分にゴール前やや右サイド約30メートルの距離から直接ゴール。無回転ボールは壁の左を抜け、ゴール左に突き刺さった。度肝を抜く一撃に、敵将ルシェンブルゴ監督も脱帽。

 ◆ベッカム(イングランド代表=01年10月6日) W杯欧州予選ギリシャ戦のロスタイム、ゴール正面25メートルの距離から右足でカーブシュート。鋭く大きな弧を描いたボールに、GKは1歩も動けずに見送った。土壇場で2-2の同点とし、W杯出場を決めた。

 ◆ロベルト・カルロス(ブラジル代表=97年6月3日) プレW杯大会フランス戦の前半21分、ゴールまで約35メートルの距離から左足のアウトサイドで強烈なシュート。4枚の壁を右側から巻き、シュート回転したボールは大きく曲がり、右ポスト際へ突き刺さった。(所属の当時)

 ◆浅井武(あさい・たけし)1956年(昭31)9月12日生まれ、名古屋市出身。筑波大、同大学院卒。学生時代は体育会蹴球部でプレー。山形大地域教育文化学科助教授を経て、筑波大大学院人間総合科学研究科へ異動。日本人スポーツ研究者として初めて国際物理科学「Physics World」に論文を掲載。工学博士で日本フットボール学会会長であり、筑波大蹴球部の総監督。

※今回の企画は、筑波大学大学院人間総合科学研究科サッカーコーチング研究室に協力していただきました。


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