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第16回フランス大会
政治とサッカー、そして人間の迫力

 政治とスポーツは関係ないが、その背景が時には恐ろしいまでの迫力を生むことがある。実力国が上位進出を果たした中で「東欧のブラジル」と呼ばれ るダークホースのクロアチアの快進撃が、我々に新鮮な驚きを与えた。

 91年に旧ユーゴスラビアから独立したばかり。87年ワールドユースで優勝に貢献したスーケル、ボバンらが代表に名を連ねていたが、初出場で3位は66年イングランド大会のポルトガル以来の快挙となった。1次リーグ初戦のジャマイカに3―1で快勝すると、日本も下して決勝トーナメントに進出。全7試合で6ゴールのスーケルは、大会得点王に輝く働きだった。

 日本の九州ほどの面積しか持たない母国は当時、内戦の跡が残る状況だった。スタジアムは戦争で半壊し、国内リーグも一時中断するほど。武力制圧で約1万人が死亡したともいわれる。主将を務めたボバンは母国協会と交渉し、選手の出場給を確保するなど動いた。勝つことが平和へのアピールだった。

 政治的な対決として、イランと米国の試合も注目された。79年にイランの首都テヘランで学生グループが米国大使館を占拠した人質事件から国交が閉ざされていたが、イランが2―1で勝利を飾る。イランのダエイは「選手生活で最も重要な試合だった」と告白した。選手、いや、人間が生み出す迫力が、記者席にも伝わってきた。この大会でも有数の名勝負だった。【98年大会取材・横田和幸】


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